季節は移ろい、真夏の太陽が容赦なく照り返す頃、おそのは再び奉公の為江戸への旅をしていた。必死の看病の甲斐もなく他界した母親の冥福を祈って、見附宿地蔵めぐりをしたいと考えていた。それに、何よりもあの若者にもう一度会いたいと思っていた。見附宿は忘れられない所、そうだ、幸せになれるという見附宿七福神めぐりもしよう、そのため、二三日滞在して行こうと心に決めていた。
旅篭の主人が言うのに、明後日は祇園祭り。故事によれば、親に引き裂かれお互いに探しあっていた男女が、東西の舞車に乗って巡り会ったとか。おそのは、多少心得のある舞を旅篭の一部屋に篭って稽古していた。
一方、若者もおそののことが頭に焼きついていた。上方への仕事を引き受けて街道を上って来たのも、ひょっとして上方で会えるかも知れないと思ってのこと。そして、見附宿で祇園祭の舞車に乗ることを承諾することになった。
祭りは、昼間から陣太鼓を打って、賑やかに始った。富くじ大会などもの珍しい催しがあった。
その夜、舞車は久し振りに盛り上がりを見せた。東西の車が近づいた時、再会に驚いて一瞬舞が途絶え、その後二人は見事に舞ったから。
翌日、朝市で賑わう見附の通りで、なごりを惜しむ男女がいた。しかし、今度こそ二人はしっかりと再会を約束していた。
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